『会社員』に原作はある?NHKの脚本開発プロジェクトを紹介

吉田羊さん主演のドラマ『会社員』には、原作小説や漫画があるのでしょうか。脅迫文をきっかけに主人公の人生が揺らぐ設定を見ると、「もともとサスペンス小説があるのかな」と気になります。

『会社員』は、既存の小説や漫画を映像化した作品ではなく、NHKの脚本開発チーム「WDRプロジェクト」から生まれたオリジナルドラマです。

脚本を担当するのは、名嘉友美さん、松井周さん、あさか友恵さん、縦谷宗さんの4名。あさか友恵さんは、本作の原案も担当しています。

そのため、作品情報で「原案」という言葉を見かけても、それを原作小説の存在と結びつける必要はありません。『会社員』では、ドラマの企画の出発点と、そこから作られた脚本を分けて考えると分かりやすくなります。

この記事では、原作と原案の違い、WDRプロジェクトの仕組み、そして複数の作り手が物語を開発する制作方法について紹介します。事件の差出人や結末のネタバレは扱いません。

『会社員』は原作小説・漫画のあるドラマではない

NHK財団が運営する「ステラnet」の制作発表では、『会社員』はWDRプロジェクトの第2弾として紹介されています。WDRは、チームでオリジナルシリーズドラマの脚本を開発する取り組みです。

つまり、本作の出発点は、すでに刊行されている小説や漫画ではなく、このプロジェクトの中で育てられたドラマ企画にあります。

原作本を読んで先の展開を確認するタイプの作品ではないというのが、原作を探している人にとって最初に押さえたい点です。

確認元:ステラnet『会社員』制作発表・脚本家コメント

「原案」と「原作」はどう違う?

原作は、ドラマのもとになる小説や漫画などの作品を指す場合に使われます。一方、原案は、物語の着想や基本となる企画を指す場合に使われる言葉です。ただし、担当範囲は作品によって異なるため、言葉だけから制作工程のすべてを判断することはできません。

『会社員』については、あさか友恵さんが原案を担当したことと、4名が脚本を担当したことが制作発表で確認できます。

ここから、「あさか友恵さんの小説を、ほかの3人が脚色した」と考えるのは違います。そのような原作小説を映像化した作品としては紹介されていません。

また、原案担当者がいるからといって、完成したドラマのすべての展開を一人だけで決めたとも言い切れません。企画の出発点を作ることと、連続ドラマとして脚本を完成させることは、同じ作業ではないからです。

原作がないことと、実話であることは別

もう一つ混同しやすいのが、「原作がないなら、実際の会社で起きた事件がもとなの?」という疑問です。

しかし、オリジナルドラマであることだけを理由に、実話や特定の企業の事件を映像化した作品だとは判断できません。

職場の評価や出世、人間関係といった身近な問題が登場すると、現実の出来事と重ねて受け取りたくなります。それでも、現実にありそうな設定と、実在の事件をもとにしたという制作情報は別です。

『会社員』を理解する際は、確認できた制作情報と、視聴者が現実との共通点を感じることを分けておくと、作品の受け止め方も整理しやすくなります。

NHKの「WDRプロジェクト」とは?

WDRは「Writers’ Development Room」の略称です。NHKが2022年に立ち上げた脚本開発の取り組みで、公募によって選ばれたメンバーが、チームでオリジナルの連続ドラマを開発します。

ここでいうチームライティングは、複数の作り手が物語について話し合いながら作る方法です。脚本家の名前が複数並んでいるだけでなく、企画を育てる段階にも共同作業があることが特徴です。

公式情報:NHK「WDRプロジェクト」公式サイト

複数の脚本家がいると、何が変わるのか

一般的に、共同で物語を考える場合には、一人が出した案に対して、別の人が疑問や別の見方を示すことができます。

たとえば、主人公の判断を筋が通っていると考える人がいても、別の立場から見ると、その判断によって困る人物がいるかもしれません。そこで話し合うことで、主人公以外の視点にも目を向けられます。

これは共同制作の方法から考えられる利点であり、『会社員』の特定の場面が、実際にそのような議論で生まれたと断定するものではありません。

また、複数の脚本家が参加しているからといって、自動的に物語が面白くなるわけでもありません。異なる意見を取り入れつつ、人物の性格や物語の流れを一つの作品としてつなげる必要があります。

いろんな見方が入るのは面白そうやけど、それを一つの物語にまとめるのも簡単ではなさそうです。人数だけでなく、どんな問いを共有して作るかが大事になるのでしょう。

担当話数や役割を、名前の順番から推測しない

脚本家が4名いると、「一人が2話ずつ担当したのかな」「最初に名前がある人が全体を決めたのかな」と想像するかもしれません。

ただし、脚本家の人数やクレジットの並びだけでは、各話の分担や最終的な決定方法までは分かりません。

確認できる担当情報と、外から想像した分担は区別する必要があります。『会社員』では、まずWDRで開発された企画をもとに、4名が脚本を担当しているという制作発表を押さえるのが確実です。『会社員』と『3000万』は、どんな関係がある?

『会社員』の制作情報を調べると、2024年放送のNHKドラマ『3000万』という作品名が出てきます。この二つを、続編や同じ原作のシリーズだと思った人もいるかもしれません。

両作品のつながりは、NHKのWDRプロジェクトから生まれたドラマであることです。『3000万』の物語の続きを描く作品として、『会社員』が紹介されているわけではありません。

WDRの第1期から生まれたのが『3000万』。そして、第2期で開発された企画をもとに制作されたのが『会社員』です。

「第2弾」という表現は、この脚本開発の取り組みから生まれた作品としての順番を示しています。登場人物や事件がつながるシリーズの第2作、という意味ではない点を押さえておくと分かりやすいでしょう。

そのため、制作上の関係を知るために『3000万』へ目を向けることはできますが、『会社員』を理解する前提として、前作のあらすじを覚える必要があるとは案内されていません。

確認元:ステラnet『会社員』制作発表・WDRプロジェクト紹介

『会社員』の脚本を担当する4人

『会社員』の脚本には、名嘉友美さん、松井周さん、あさか友恵さん、縦谷宗さんの4名が参加しています。

制作発表のプロフィールを見ると、演劇や映像、ウェブ小説、ゲームシナリオなど、それぞれ異なる分野で活動してきた作り手が集まっていることが分かります。

脚本家制作発表で紹介されている活動・担当
名嘉友美劇団シンクロ少女を主宰。『3000万』の脚本にも参加
松井周劇作家・演出家。『3000万』の脚本にも参加
あさか友恵短編アニメの脚本やウェブ小説などを執筆。『会社員』では原案も担当
縦谷宗ゲームシナリオや世界観設定を担当。WDR第2期に参加

この顔ぶれから分かるのは、同じ経歴の脚本家だけで制作された作品ではないということです。ただし、経歴を見て「この人がサスペンス担当」「この人が人物心理担当」と役割を決めつけることはできません。

演劇の経験がある人にも、ゲームのシナリオを書く人にも、人物の葛藤や物語の展開を考える仕事があります。実際の分担が公表されていない部分まで、得意分野のイメージで補わないことが大切です。

制作方法に注目するなら、誰がどの場面を書いたかを当てるよりも、異なる背景を持つ作り手が、同じ人物や問題をどう捉えたのかに関心を向けると面白いでしょう。

原作がない『会社員』を、どう楽しめる?

原作のあるドラマでは、映像化によって何が変わったのか、どの場面が残されたのかという楽しみ方ができます。

一方、『会社員』では、既存の原作と展開を照らし合わせるより、ドラマの中に提示された情報を追いながら、人物の判断やその結果を考える見方が合っています。

脅迫文が届くという設定は、差出人や目的への関心を引きます。しかし、物語を理解するうえでは、事件の答えだけでなく、英理子が何を守ろうとして行動するのかにも目を向けられます。

人物の選択を、次の展開と一緒に考える

原作から結末を確認することができない作品では、その時点で分かっていることと、まだ分からないことを分けながら見ることになります。

ある人物の行動が怪しく見えても、それが差出人である証拠になるとは限りません。反対に、一見すると筋の通った判断でも、別の人物の立場からは納得できないかもしれません。

そこで役立つのが、「この人物は何を知っているのか」「何を失うことを恐れているのか」「判断の結果、誰に負担が生じるのか」という問いです。

これは制作側の意図を断定するものではなく、人物の選択を考えるための見方です。答えを急がず、描写が増えるたびに受け止め方を変えられることも、オリジナルドラマを追う楽しさでしょう。

会社の正しさと、人の納得は重なるのか

『会社員』の作品紹介では、組織で働くことや良心がテーマとして示されています。

このテーマから考えると、見る側にも「仕事を進めるための判断」と「その判断を受ける人の気持ち」が重なるのか、という問いが生まれます。

会社にとって都合のよい対応が、そこで働く全員にとって納得できる対応になるとは限りません。一方で、個人の思いだけで組織の問題を解決できるとも限らない。その間で人物がどう選ぶかに、物語の関心を向けられます。

誰か一人を悪者にしたら、気持ちは整理しやすいかもしれません。でも、その人がそう判断した背景まで考えると、簡単には割り切れへん部分も出てくる。『会社員』という身近なタイトルには、そんな問いを自分の側へ引き寄せる余地があります。

まとめ|『会社員』はWDRから生まれたオリジナルドラマ

『会社員』は、既存の小説や漫画を原作とする作品ではなく、NHKのWDRプロジェクトで開発された企画をもとにしたオリジナルドラマです。

あさか友恵さんが原案を担当し、名嘉友美さん、松井周さん、あさか友恵さん、縦谷宗さんの4名が脚本に参加しています。「原案」の表記は、原作小説や漫画があることを意味しません。

また、『3000万』との関係は、同じ脚本開発プロジェクトから生まれた作品であること。『会社員』は、その続編として紹介されている作品ではありません。

原作を探す代わりに、ドラマが少しずつ示す情報や、人物が選んだ行動を追っていく。制作の背景を知ることで、事件の行方に加えて、組織の中で揺れる人々をどう描いているかにも目を向けられそうです。

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