『紅の豚』には原作があるのでしょうか。映画のために一から作られた物語なのか、それとも小説や漫画を映画化した作品なのか、気になるところです。
『紅の豚』の原作は、宮崎駿監督自身が描いた短編漫画『飛行艇時代』です。模型雑誌『月刊モデルグラフィックス』で発表された作品をもとに、登場人物や物語を広げて映画が作られました。
原作は、長く続く漫画シリーズではありません。出版社の紹介によると、カラー漫画の本編は15ページ。その短い作品から、ポルコやフィオ、ジーナたちが生きる長編映画へ発展しています。
この記事では、原作漫画の名前と掲載媒体、映画化の経緯、原作を収録した本の内容を整理します。まずは、漫画と映画がどのような関係にあるのかから見ていきましょう。
『紅の豚』の原作は、宮崎駿の漫画『飛行艇時代』
原作・脚本・監督を宮崎駿が担当している
『紅の豚』は、別の作家が書いた小説を宮崎駿監督が映画化した作品ではありません。自分で描いた漫画をもとに、映画の脚本と監督も手がけています。
スタジオジブリ公式の作品ページでも、『紅の豚』の「原作・脚本・監督」は宮﨑駿と記載されています。
そのため、「宮崎駿のオリジナル作品」という説明と、「原作漫画がある」という説明は両立します。映画に先立つ漫画があり、その漫画の作者も映画の監督本人だということです。
映画の原点を探すときは、『紅の豚』という題名だけでなく、『飛行艇時代』という漫画の名前を押さえておくと整理しやすくなります。
模型雑誌の連載「宮崎駿の雑想ノート」で発表された
原作の発表媒体は、『月刊モデルグラフィックス』です。宮崎駿監督が同誌で連載していた「宮崎駿の雑想ノート」の中で、『飛行艇時代』が描かれました。
この掲載関係は、日本テレビの『紅の豚』制作裏話でも紹介されています。また、web岩波の鈴木敏夫さんと田家秀樹さんの対談では、1990年3月から3回に分けて掲載された短編漫画が、映画のもとになったと説明されています。
ここで少し紛らわしいのが、「宮崎駿の雑想ノート」と「飛行艇時代」という二つの名前です。前者は連載の名前、後者はその中で発表された漫画の題名として分けるとわかりやすいでしょう。
なお、雑誌での掲載関係と、現在の書籍への収録内容は別に確認する必要があります。「雑想ノートで発表されたから、その名前の本なら必ず原作を読める」とは判断せず、収録作品を確かめることが大切です。
原作漫画は15ページ|本全体のページ数とは違う
『紅の豚』を見たあとでは、原作もかなり長い物語なのではないかと思うかもしれません。しかし、原作漫画の本編は15ページです。
大日本絵画の『飛行艇時代 増補改訂版』紹介でも、映画に先駆けて描かれた15ページのカラー漫画を収録していることが確認できます。
ただし、15ページという数字は、原作漫画の長さです。書籍『飛行艇時代』全体が15ページしかないという意味ではありません。
書籍には漫画だけでなく、映画や飛行艇に関する資料も収録されています。原作の物語を読む部分と、作品の背景や機体を知る部分が、一冊の中にある構成です。
この違いを知らないと、「短い漫画なのに、どうして一冊の本になっているの?」と戸惑うかもしれません。原作漫画を中心に、映画と飛行艇の世界へ視野を広げる本だと考えると、内容をつかみやすくなります。
また、15ページという短さは、そのまま内容の薄さを意味するわけではありません。長編映画の場面や会話がすべて載っているのではなく、映画へ育っていく物語の原点が、短い形で描かれているのです。
『飛行艇時代』は、どうやって映画『紅の豚』になった?
最初は機内上映向けの短編として企画された
映画『紅の豚』は、最初から現在の長編映画と同じ規模で企画されていたわけではありません。
日本テレビの制作紹介によると、当初は日本航空の機内上映向けの短編アニメーションとして考えられていました。宮崎駿監督には、スタッフのリフレッシュも兼ねて、気楽な小品を作りたいという考えがあったと紹介されています。
また、web岩波の対談では、鈴木敏夫さんが、『飛行艇時代』をベースに15分の短編を作るところから始まったと説明しています。
短い漫画をもとに、短いアニメーションを作る。その出発点から構想が膨らみ、劇場公開される長編映画へ変わっていったのです。
飛行機の中で、飛行艇が活躍する作品を見るという企画には、乗り物そのものを楽しむ発想が感じられます。その原点を知ると、機体の動きや操縦の描写も、物語の背景だけではなく、作品を支える楽しさとして見えてきます。
映画ではジーナが加わり、人物の関係が広がった
原作と映画の違いとして、公式に確認できるものの一つがジーナの存在です。日本テレビの制作裏話では、ジーナは原作には登場しない人物だと紹介されています。
これは、映画の印象を考えるうえで大きな違いでしょう。映画のジーナは、ポルコの昔を知り、彼の現在の生き方にも関わる人物だからです。
原作にジーナがいないと知ると、映画の人間関係が、漫画にあるものをそのまま移しただけではないことがわかります。映画化の過程で人物が加わり、ポルコを別の角度から見せる関係が生まれています。
『紅の豚』は、短い漫画の場面を長く引き延ばした映画ではなく、原作を出発点に、人と人との関係まで広げた作品として捉えられます。
飛行艇の活躍を楽しむ入り口から、誰かを待つことや、過去を抱えて生きることへも話が広がる。そこが、漫画と映画を比べるときに注目したいところです。
原作『飛行艇時代』は、どの本で読める?
原作漫画と関連資料を収録した『飛行艇時代』
原作を探す場合は、宮崎駿著、大日本絵画刊の『飛行艇時代』を確認するとわかりやすいでしょう。出版社は、この本を映画『紅の豚』の原作漫画を収録した書籍として紹介しています。
『飛行艇時代 増補改訂版』には、15ページのカラー漫画に加え、映画資料、飛行艇の模型、水上機の写真、戦闘飛行艇の歴史に関する内容などが収録されています。
漫画の物語を読むだけでなく、ポルコたちが飛ぶ世界を、機体や模型の側からも楽しめる構成です。
映画では、飛行艇が動き出すと、どうしてもその速さや操縦に目が向きます。本なら、機体の形や細部を自分のペースで眺められます。映像とは違う距離で、飛行艇を楽しめるわけです。
なお、本の名前が似ていても、関連書籍がすべて原作漫画を収録しているとは限りません。探す際は、出版社の内容紹介で「原作漫画の収録」を確認すると確実です。
映画を漫画にした本と、映画の原作漫画は別
『紅の豚』という題名の漫画形式の本を見つけた場合、それが映画の原作とは限りません。
たとえば、映画の場面をコマとして構成し、せりふとともに読めるシネマ・コミックがあります。これは、映画を本の形で楽しむためのもので、映画に先立って描かれた『飛行艇時代』とは成り立ちが異なります。
スタジオジブリ出版部の刊行物の索引にも、『シネマ・コミック7 紅の豚』が掲載されています。
整理すると、映画が生まれる前の漫画を読みたいなら『飛行艇時代』、映画の場面や会話を本でたどりたいならシネマ・コミックという違いがあります。
どちらが優れているという話ではなく、何を確かめたいかで選ぶ本が変わります。「原作で映画との違いを知りたかったのに、映画と同じ場面が並んでいる」とならないよう、ここは区別しておきたいところです。
原作を読めば、映画に残る謎も解けるのか
『紅の豚』には、ポルコが豚になった理由や、最後に人間へ戻ったのか、ジーナとの関係はどうなったのかなど、説明を一つに決めきれない部分があります。
そうした疑問を持つと、「原作なら答えがはっきり書かれているのでは」と期待するかもしれません。
しかし、原作は、映画の省略された説明をすべて補うための資料ではありません。映画化で加わった人物や関係がある以上、映画の疑問すべてに、先に描かれた漫画が答えを持っているとは限らないからです。
とくにジーナは、前半で紹介した日本テレビの制作情報によれば、原作には登場しません。そのため、映画のジーナに関わる結末を、原作漫画だけで確定させようとするのは適切ではありません。
原作で描かれたこと、映画で新たに描かれたこと、そのどちらでも説明されていないこと。この三つを分けて考える必要があります。
謎の答えを探す楽しさはあります。ただ、答え合わせのためだけに読むと、原作そのものが持つ短編としての楽しさを見落としてしまうかもしれません。映画とは違う形のポルコの物語として向き合うほうが、発見は増えそうです。
漫画と映画を比べるなら、どこに注目するとおもしろい?
共通する場面が、映像でどう動くか
日本テレビの制作裏話では、マンマユート団を相手にする賞金稼ぎの場面が、原作の第1回に描かれていると紹介されています。
こうした共通する場面は、漫画と映画を比べる入り口になります。紙の上で描かれた機体の動きが、映像ではどんな速度になり、どんな音を伴うのか。せりふの間や、人物の表情が、場面の印象をどう変えるのかにも目を向けられます。
漫画では、自分で読む速さを決められます。一枚の絵を長く眺めることも、動きを追って読み進めることもできます。一方、映画では、動きと音と時間が組み合わされ、観客へ届きます。
同じ出来事でも、表現する媒体が変われば、楽しみ方も変わる。その違いを見るだけでも、単なる「あった・なかった」の比較から一歩広がります。
ジーナがいることで、ポルコの印象がどう変わるか
映画のジーナは、ポルコの過去を知る人物です。彼女がいることで、観客はポルコを、空賊と戦う腕利きの飛行艇乗りという側面だけでなく、誰かとの長い関係の中にいる人物として見ることができます。
飛び去るポルコを見る人がいる。戻ってくることを気にかける人がいる。その関係が加わることで、一人で自由に生きる姿にも、別の意味が生まれます。
映画のポルコは、自由に飛ぶ男であると同時に、地上の誰かとつながっている男として描かれています。
一人で好きに生きているように見えても、本人が気づいていないところで、誰かが帰りを気にしていることはあるんよな。ジーナの存在は、ポルコの自由に、そうした関係の重さを感じさせます。
これはジーナを加えた制作意図の断定ではなく、映画の人物関係から考えられる効果です。原作と映画を比べる際には、追加された人物が、主人公の見え方をどう変えるかに注目するとおもしろいでしょう。
まとめ|『紅の豚』は、自作の短編漫画から広がった映画
『紅の豚』には原作があります。宮崎駿監督が模型雑誌『月刊モデルグラフィックス』の連載「宮崎駿の雑想ノート」で発表した、短編漫画『飛行艇時代』です。
15ページのカラー漫画を出発点に、短編アニメーションとしての企画が膨らみ、ジーナなどの人物も加わって、長編映画『紅の豚』になりました。
原作漫画は、大日本絵画の書籍『飛行艇時代』で読むことができます。映画を本の形でたどるシネマ・コミックとは、別の作品です。
原作を読むことは、映画の謎をすべて解くこととは限りません。それでも、飛行艇への愛情や、短い漫画が映画へ広がっていく過程を知る入り口になります。映画で好きになったポルコの世界を、今度は紙の上から眺めてみる。そんな楽しみ方ができる原作です。

コメント