『風立ちぬ』の主題歌は何という曲で、誰が歌っているのでしょうか。「ユーミンの声だと思うけれど、名前が荒井由実になっているのはなぜ?」と気になった方もいるかもしれません。
最初に答えると、『風立ちぬ』の主題歌は、荒井由実の「ひこうき雲」です。作詞・作曲・歌を荒井由実、現在の松任谷由実が担当しています。
映画のために新しく書き下ろされた曲ではありません。1973年に発表された楽曲が、約40年後の2013年に、宮崎駿監督の映画と結びつきました。
この記事では、歌手と楽曲の基本情報に加え、主題歌に選ばれた経緯や、宮崎監督とこの曲との関係を紹介します。そのうえで、映画と重ねたときに、どのような受け取り方ができるのかを考えていきます。
『風立ちぬ』の主題歌は荒井由実の「ひこうき雲」
ディズニー公式の作品ページでは、『風立ちぬ』の主題歌として「ひこうき雲」、作詞・作曲・歌として荒井由実の名前が記載されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主題歌 | ひこうき雲 |
| 歌 | 荒井由実(現在の松任谷由実) |
| 作詞・作曲 | 荒井由実 |
| 映画の音楽 | 久石譲 |
| 楽曲の位置づけ | 映画公開以前に発表されていた曲を主題歌に起用 |
ここで分けておきたいのが、主題歌と、映画全体の音楽の担当です。『風立ちぬ』の音楽は久石譲ですが、「ひこうき雲」の作詞・作曲は荒井由実です。
「ジブリ映画の曲だから久石譲が作曲したのかな」と思いやすいものの、この主題歌は別の成り立ちを持っています。
荒井由実と松任谷由実は同じ人
荒井由実は、松任谷由実が旧姓で活動していた頃の名前です。「別の歌手によるカバーなのか」「映画では誰の歌声が使われているのか」と迷う必要はありません。
三鷹の森ジブリ美術館の公式紹介でも、映画の主題歌は、松任谷由実が荒井由実だった頃の歌声であることが説明されています。
現在の名前で知っている人にとっては少しややこしいですが、映画のクレジットに合わせるなら、「荒井由実『ひこうき雲』」という表記が分かりやすいでしょう。
「ひこうき雲」は映画のための書き下ろしではない
「ひこうき雲」は、1973年に発売された荒井由実のデビューアルバム『ひこうき雲』の表題曲です。
ユニバーサル ミュージックの公式発表によると、このアルバムの発売日は1973年11月20日。『風立ちぬ』が公開された2013年より、約40年前の作品です。
出典:ユニバーサル ミュージック「映画『風立ちぬ』主題歌『ひこうき雲』配信開始」
同社の別の公式紹介では、ユーミンが高校生のときにつくった曲であり、その後のデビューにつながる楽曲だったと説明されています。
出典:ユニバーサル ミュージック「『ひこうき雲』ミュージッククリップ完成」
つまり、映画の登場人物や結末に合わせて、一から歌詞が書かれたわけではありません。
この順番は、曲と作品の関係を考えるうえで大切です。映画を知ってから聴くと人物の姿が浮かんでも、それだけで「もともと菜穂子について書かれた歌」とは言えないのです。
曲には曲として生まれた背景があり、その後に映画との新しい関係が加わった。そう整理すると、楽曲そのものと、映画の主題歌としての役割を、どちらも大切にできます。
なぜ「ひこうき雲」が主題歌に選ばれたのか
主題歌への起用は、鈴木敏夫プロデューサーからの提案がきっかけでした。
スタジオジブリ公式の「ジブリだより」によると、鈴木プロデューサーは、松任谷由実のデビュー40周年記念ベスト盤を聴き直す中で、「ひこうき雲」の歌詞が『風立ちぬ』に合うと気づき、宮崎監督へ提案したそうです。曲を聴いた監督も賛成したと紹介されています。
その後、2012年末のトークイベントで、鈴木プロデューサーが松任谷由実本人に、主題歌として使いたいと公開の場で依頼しました。本人の快諾を得て、手続きが進められたという経緯です。
この公式説明から分かるのは、曲名に「ひこうき」が入っているという理由だけで、選ばれたわけではないことです。作品とのつながりとして、歌詞にも目が向けられていました。
ただし、どの言葉をどの登場人物に対応させたのかまで、この紹介で細かく説明されているわけではありません。そこから先は、制作情報と、聴く側の解釈を分けて考えたいところです。
宮崎駿監督は、映画をつくる以前からこの曲を聴いていた
「ひこうき雲」と宮崎監督との関係は、『風立ちぬ』の主題歌選びだけではありません。
三鷹の森ジブリ美術館の公式展示紹介によると、監督は、アニメーションの仕事に取り組んでいた頃、職場の仲間が持ち込んだカセットテープでこの曲に出会い、繰り返し聴いていたそうです。
この事実を知ると、主題歌への起用が、完成間近の映画に曲を添えるだけの出来事ではなかったことが見えてきます。監督自身が以前から親しんでいた歌が、新しい作品と出会い直したのです。
ここからは考察ですが、昔から知っている曲でも、時間がたち、置かれる場面が変わると、別の響きを持つことがあります。
曲そのものが変わらなくても、その前にどんな物語があるかで、耳に残るものは変わる。「ひこうき雲」と『風立ちぬ』の関係には、そんな面白さがあるんちゃうかな。「ひこうき雲」と『風立ちぬ』はどう重なるのか
「ひこうき雲」と『風立ちぬ』の関係を考えるとき、まず目に入るのは、どちらにも空のイメージがあることです。
二郎にとって空は、飛行機への憧れと結びついています。しかし、映画には設計の仕事だけでなく、病を抱えた菜穂子との出会いと別れも描かれます。公式の作品紹介でも、飛行機の誕生と菜穂子との関係の両方が、物語の要素として挙げられています。
ここからは考察ですが、この二つの流れを踏まえると、「ひこうき雲」という題名も、単に飛行機が残す白い線だけを連想させるものではなくなります。
空へ向かう憧れと、そこにいた存在の痕跡。そうしたイメージを、二郎の夢や、大切な人と過ごした時間に重ねて受け取ることもできます。
ただし、これは映画と楽曲を合わせて考えたときの解釈です。曲名の本来の意味や、作者が込めた意図を、この読み方だけで断定することはできません。
菜穂子だけの歌として決めつけなくてもよい
映画と重ねて聴くと、菜穂子の姿を思い浮かべる人もいるでしょう。病を抱えながら二郎と生きようとする彼女の物語に、曲の響きを結びつけるのは、一つの自然な受け取り方です。
一方で、この曲が映画より約40年も前から存在していたことを考えると、歌の中の存在を、そのまま菜穂子と同一視する必要はありません。
二郎が追い求めた夢、失われていくもの、過ぎ去った時間。映画のどこに心が残ったかによって、曲と重なる部分も変わるはずです。
主題歌は、登場人物を一人ずつ説明するための答え合わせではなく、物語を受け止める余白にもなっている。そう考えると、受け取り方を一つに絞らずに聴けます。
「これは誰のことを歌っているんやろ」と考える面白さもあります。でも、誰か一人に決められないからこそ、映画全体の時間が浮かんでくることもあるんですよね。
映画の時代と、主題歌が生まれた時代は違う
もう一つ整理しておきたいのが、物語の年代と楽曲の発表年です。
『風立ちぬ』は、大正から昭和にかけての日本を背景にした映画です。一方、「ひこうき雲」は1973年に発表された曲で、映画の公開は2013年です。
| 区別するもの | 時代・年 |
|---|---|
| 映画の主な時代背景 | 大正から昭和初期 |
| アルバム『ひこうき雲』の発売 | 1973年 |
| 映画『風立ちぬ』の公開 | 2013年 |
この違いは、時代設定の矛盾ではありません。映画の主題歌は、登場人物が暮らす時代に発表された曲でなければならない、というものではないからです。
二郎たちが生きた時代を描く映像に、別の時代に生まれた歌が重なる。その組み合わせによって、昔の出来事を、今の観客が自分の感情につなげる入口にもなります。
制作上の意図を断定することはできませんが、年代の違う作品同士が出会うことも、映画音楽の面白さの一つでしょう。
主題歌への起用から生まれたミュージッククリップ
『風立ちぬ』とのつながりは、映画本編だけにとどまりません。主題歌への起用をきっかけに、「ひこうき雲」のミュージッククリップも制作されました。
ユニバーサル ミュージックの公式発表によると、プロデュースは鈴木敏夫、監督は砂田麻美です。撮影は三鷹の森ジブリ美術館で行われました。
出典:ユニバーサル ミュージック「『ひこうき雲』ミュージッククリップ完成」
公式紹介では、ユーミン自身がジブリの作品を通じ、約40年を経てこの曲と出会い直す心の風景を映像にしたものと説明されています。
ここで区別したいのは、ミュージッククリップの制作年と、楽曲そのものの発表年は別という点です。2013年に映像がつくられたからといって、曲までその年の新曲になったわけではありません。
映画のために生まれた曲ではないからこそ、すでにあった歌が新しい映像と結びつき、別の表情を持つ。その過程も、今回の主題歌起用の特徴です。
宮崎監督が贈った18枚の絵にも、映画と歌の関係が残る
さらに、2013年の40周年記念盤『ひこうき雲/荒井由実』に寄せて、宮崎監督はユーミンに18枚の絵を贈っています。
三鷹の森ジブリ美術館では、これらの絵を紹介するギャラリー展示も開催されました。
前半で紹介したように、監督は以前からこの曲を繰り返し聴いていました。その歌が自分の映画の主題歌となり、今度は絵を贈るという形で、つくり手同士の交流につながっています。
この経緯を知ると、「映画に合う曲を選んだ」という一言だけでは見えない関係が分かります。長く存在していた歌と、長く仕事を続けてきた監督の時間が、ここで重なったのです。
まとめ|「ひこうき雲」は約40年の時を経て『風立ちぬ』と出会った
『風立ちぬ』の主題歌は、荒井由実の「ひこうき雲」です。作詞・作曲・歌は荒井由実、現在の松任谷由実が担当しています。
1973年に発表された曲を鈴木敏夫プロデューサーが映画に合うと考え、宮崎監督へ提案。その後、本人への依頼を経て主題歌への起用につながりました。
映画のために書き下ろされた歌ではなく、すでに存在していた歌が、二郎と菜穂子の物語に新しい響きを添えた。それが「ひこうき雲」と『風立ちぬ』の関係です。
空への憧れに重ねるのか、大切な人との時間に重ねるのか。その受け取り方まで、一つに決める必要はありません。映画を通して曲を知り、曲を聴いて映画を思い返す。そんな行き来も、この主題歌の楽しみ方やと思います。

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