『火垂るの墓』の作画は誰?近藤喜文と制作スタッフの役割を紹介

『火垂るの墓』の清太や節子は、誰が描いたのでしょうか。監督の高畑勲さんは知っていても、人物のデザインや作画を担当した人までは、知らないという方もいるかもしれません。

結論からいうと、『火垂るの墓』のキャラクターデザイン・作画監督は近藤喜文さんです。レイアウト・作画監督補佐を百瀬義行さん、美術監督を山本二三さんが担当しています。

ただし、作画監督の名前が分かったからといって、映画のすべての絵を一人で描いたという意味にはなりません。人物の姿や動き、背景、色など、異なる仕事が組み合わさって、一つの画面が作られています。

この記事では、1988年公開のアニメーション映画『火垂るの墓』の公式スタッフ情報を基に、近藤喜文さんをはじめとする制作陣の役割を整理します。結末の詳しいネタバレはありません。

『火垂るの墓』の作画監督は近藤喜文

ディズニー公式の作品ページでは、近藤喜文さんが「キャラクターデザイン・作画監督」として掲載されています。

出典:ディズニー公式『火垂るの墓』スタッフ情報

キャラクターデザインと作画監督は、関連する仕事ですが、同じ意味ではありません。一般的には、キャラクターデザインは人物の外見や描く際の基準を設計する仕事、作画監督は制作された作画を確認し、必要な修正を加えて整える仕事です。

『火垂るの墓』では、その両方を近藤さんが担当しています。

清太や節子の姿を、作品の中で成立させる仕事

人物の絵を作るときは、正面から見た顔が決まれば終わり、というわけではありません。横を向いたとき、振り返ったとき、座ったときにも、同じ人物として見える必要があります。

さらに、アニメーションでは、その人物が動きます。顔つきや体格だけでなく、年齢に合った姿勢や、場面ごとの表情も、人物の印象に関わります。

ここからは鑑賞の視点ですが、14歳の清太と4歳の節子を見る際にも、身長差だけでなく、立ち方や体の使い方に注目すると、年齢の違いを絵で表す難しさを考えられます。

人物が何を言うかに加えて、どんな姿でそこにいるかも、物語を伝える要素になっています。

なお、公式の担当表記だけから、特定の場面の表情や動きを近藤さん一人の仕事だと断定することはできません。個々のカットの担当を説明するには、別途、制作資料による確認が必要です。

作画監督が、すべての絵を一人で描いたわけではない

「作画は誰?」という疑問には、中心となるスタッフの名前を知りたい場合と、ある場面を実際に描いた人を知りたい場合があります。この二つは分けて考えると、誤解を避けられます。

作画監督は、作品の作画を整える立場です。一方、アニメーションの制作には、動きの要所となる絵を描く原画や、その間をつなぐ動画など、複数の工程があります。

そのため、作画監督が近藤喜文さんであるという情報は、映画に登場する人物の絵を、最初から最後まで一人で描いたことを示すものではありません。

一つの画面にも、複数の役割がある

人物が立っている画面を考えてみると、人物の姿や動きだけでなく、周囲の建物や地面、空の色、人物と背景の位置関係なども必要です。

それぞれを別々に作れば、自動的に一つの場面になるわけではありません。人物がどこにいて、どの方向を向き、背景の中でどれくらいの大きさに見えるかなど、画面としてのつながりも求められます。

『火垂るの墓』の公式スタッフ情報には、こうした絵づくりに関わる複数の担当が掲載されています。

担当スタッフ
脚本・監督高畑勲
キャラクターデザイン・作画監督近藤喜文
レイアウト・作画監督補佐百瀬義行
美術監督山本二三
色彩設定保田道世
撮影監督小山信夫

出典:ディズニー公式『火垂るの墓』制作スタッフ一覧

監督の作品として紹介される映画にも、これだけ異なる担当がある。名前と役割を一緒に見ると、画面の受け取り方も少し変わってくるのではないでしょうか。

百瀬義行は、レイアウト・作画監督補佐を担当

百瀬義行さんは、公式情報でレイアウト・作画監督補佐として紹介されています。

レイアウトは一般的に、人物や背景の位置、大きさ、画面の構図などを、具体的な絵として設計する工程です。何を描くかだけでなく、それをどこから、どのように見せるかにも関わります。

たとえば、同じ二人の人物を描く場合でも、顔を近くで見せるのか、周囲の風景を広く入れるのかで、伝わる情報は変わります。人物同士の距離や、画面の中の余白も、場面の印象に影響します。

ただし、これはレイアウトという仕事の一般的な説明です。『火垂るの墓』の特定の構図について、百瀬さんがどのような意図で決めたのかまで、担当表記だけで断定することはできません。

イメージボードからも、絵づくりへの参加を確認できる

文化庁のメディア芸術情報サイト「MACC」の展覧会紹介では、『火垂るの墓』に関する近藤喜文さんや百瀬義行さんのイメージボードが展示されたことも紹介されています。

出典:MACC・高畑勲作品の展覧会紹介

イメージボードは、作品や場面の姿を検討するための絵です。完成した映像に至る前にも、人物や空間をどう見せるかを探る過程があることが分かります。

映画の絵は、完成した一枚だけでできているのではなく、場面を思い描き、設計し、動かし、整える仕事の積み重ねで成り立っています。

普段は物語を追うのに夢中になりますが、少し立ち止まって、人物が画面のどこに置かれているかを見るのも面白そうです。同じ場面でも、今まで意識していなかった絵の働きに気づけるかもしれません。美術監督の山本二三は、人物が生きる風景を支える

『火垂るの墓』の美術監督は、山本二三さんです。

人物を中心に見ると、背景はその後ろにある絵として意識されるかもしれません。しかし、登場人物がどんな場所にいるのか、その場所がどんな状態なのかを伝えるうえで、背景は欠かせません。

一般的に、美術監督は背景美術の方針や仕上がりを統括する役割です。人物の作画を整える作画監督とは、担当する領域が異なります。

『火垂るの墓』では、山本さんが美術監督として公式のスタッフ一覧に掲載されています。ただし、それは背景のすべてを山本さん一人で描いたという意味ではありません。

出典:ディズニー公式『火垂るの墓』スタッフ情報

風景は、兄妹の暮らしを伝える情報でもある

この作品では、町や住まいの状態が、兄妹の生活と深く結びついています。背景を見ることは、きれいな景色を探すことだけでなく、人物が置かれた状況を確かめることにもなります。

ここからは鑑賞の視点ですが、人物の表情を見るのと同じように、その周囲に何が描かれているかにも注目できます。建物があるのか、失われているのか。生活の道具があるのか。人が集まる場所なのか、二人だけの場所なのか。

そうした情報は、セリフですべて説明されなくても、画面から受け取れます。

清太や節子の人物描写と、その二人が暮らす場所の描写が組み合わさることで、生活の実感が生まれる。背景美術には、そうした働きもあると考えられます。

色彩設定と撮影も、完成した画面を作る仕事

公式のスタッフ情報では、色彩設定を保田道世さん、撮影監督を小山信夫さんが担当しています。

人物や背景の絵がそろっても、それだけで完成した映像になるわけではありません。色を決め、素材を組み合わせ、画面として仕上げる工程も必要です。

色彩設定は、人物や物の色を設計する

色彩設定は一般的に、人物や小物などに使う色を設計する仕事です。輪郭や形と同じく、色も作品の印象を支えます。

画面が明るいか暗いか、色同士がどのように見えるかによって、人物や場所の受け取り方も変わります。ただし、映画の色は背景美術や撮影などとも関係するため、画面全体の色の効果を一人の担当だけに帰すことはできません。

『火垂るの墓』のある色について、保田さんが特定の心理を表すために選んだ、と説明するには、本人の発言や制作資料の裏づけが必要です。

アニメーションの「撮影」は、絵を映像として仕上げる工程

撮影という名前から、実写映画のように俳優へカメラを向ける仕事を想像する方もいるでしょう。

アニメーションでは一般的に、人物や背景などの素材を組み合わせ、映像として成立させる工程を指します。制作時代によって具体的な方法は異なるため、現在のデジタル制作の説明を、1988年の作品へそのまま当てはめないことも大切です。

ここでは、公式の担当として撮影監督に小山信夫さんの名前があることと、撮影も最終的な画面づくりに関わる仕事であることを押さえておくとよいでしょう。

人物の形や動きだけでなく、背景、色、撮影まで重なって、観客が見る一つの画面になります。

近藤喜文は、後に『耳をすませば』の監督も務めた

近藤喜文さんを知るうえで、もう一つ押さえておきたいのが、1995年公開の『耳をすませば』とのつながりです。

スタジオジブリの公式の歴史では、『火垂るの墓』『魔女の宅急便』『おもひでぽろぽろ』で作画監督などを担当した近藤さんが、『耳をすませば』で初監督に挑戦したことが紹介されています。

出典:スタジオジブリ公式「スタジオジブリの歴史」

つまり、『火垂るの墓』ではキャラクターデザイン・作画監督として参加し、『耳をすませば』では監督を務めたという違いがあります。

作品ごとの担当を知ると、同じ名前でも、その映画で担った役割は異なることが分かります。

共通のスタッフを知ると、見る入口が増える

二つの作品は、舞台も物語も異なります。そのため、共通のスタッフがいることだけを理由に、同じ表現や意図があると決めつける必要はありません。

ただ、近藤さんの仕事を知ったうえで、人物の表情や日常の動きへ目を向けることはできます。どんな場面で人物が身近に感じられるのか、自分なりに考える入口になるでしょう。

この人、『耳をすませば』の監督でもあったんや、と知るだけでも、スタッフロールの名前が少し身近になります。作品名でつながっていたジブリ映画が、作り手の仕事を通してもつながって見えてくるのではないでしょうか。

特定の場面を描いた人まで知りたい場合は?

作画監督や美術監督の名前と、ある場面を実際に担当した人の名前は、必ずしも同じではありません。

たとえば、気になった動きを誰が原画として描いたのかを知るには、そのカットの担当が確認できる資料が必要です。スタッフ一覧に名前があることだけでは、個々の場面までは特定できません。

制作資料や関係者の解説を読む場合も、原画を描いた人、作画を修正した人、構図を設計した人など、何の担当について説明しているのかを確かめたいところです。

一つの場面にも複数の人が関わるため、「この場面を作った人」を一人に絞れない場合があります。

その複雑さも含めて知ると、映像の魅力を、監督や一人のアニメーターの才能だけで説明しきれないことが分かります。

まとめ|『火垂るの墓』の絵は、複数の専門的な仕事で作られている

『火垂るの墓』のキャラクターデザイン・作画監督は近藤喜文さんです。百瀬義行さんがレイアウト・作画監督補佐、山本二三さんが美術監督を担当しています。

さらに、色彩設定の保田道世さん、撮影監督の小山信夫さんをはじめ、多くのスタッフの仕事が完成した画面を支えています。

作画監督の名前を知ることは、すべての絵を描いた一人を見つけることではなく、映画の絵づくりを支えた役割を知ることです。

人物の表情や動き、周囲の風景、色の印象。気になったところから担当を調べてみると、物語を追うときとは違う発見があるかもしれません。

清太や節子が画面の中でどう見え、その暮らしがどう伝わってくるのか。スタッフの仕事を知ることは、作品をより具体的に見る手がかりになります。

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