映画『風立ちぬ』には、宮崎駿が描いた原作漫画があります。一方で、堀辰雄の同名小説との関係も紹介されるため、「結局、漫画と小説のどちらが原作なの?」と迷いやすい作品です。
映画の原作は、宮崎駿が『月刊モデルグラフィックス』に連載した漫画『風立ちぬ』です。そのうえで、映画のタイトルや恋愛の物語には、堀辰雄の小説『風立ちぬ』とのつながりがあります。
「原作として掲載された漫画」と「映画に取り入れられた文学的なモチーフ」を分けると、関係が見えやすくなります。
この記事では、漫画の掲載誌と単行本を確認しながら、映画、堀辰雄の小説、実在した堀越二郎の関係を整理します。結末の詳しいネタバレには踏み込みません。
映画『風立ちぬ』の原作漫画は宮崎駿自身が描いている
『風立ちぬ』は、別の漫画家が描いた作品を宮崎駿が監督した映画ではありません。宮崎駿自身の同名漫画を原作とする映画です。
スタジオジブリは、映画公開前の「ジブリだより」で、宮崎監督の同名漫画が原作であると紹介しています。また、ディズニー公式の映画作品ページにも、原作の掲載誌として『月刊モデルグラフィックス』が記載されています。
映画では宮崎駿が原作・脚本・監督を担当しており、漫画を描いた人と、映像作品として作り上げた人が同じです。
確認元:スタジオジブリ「野中くん発 ジブリだより」2013年1月号
ディズニー公式『風立ちぬ』作品情報
掲載されたのは模型情報誌『月刊モデルグラフィックス』
漫画『風立ちぬ』が連載されたのは、模型情報誌の『月刊モデルグラフィックス』です。
連載期間は2009年4月号から2010年1月号までで、全9回・45ページ。映画の日本公開日は2013年7月20日なので、漫画の連載が先にあり、その後に映画が公開された順序になります。
模型の雑誌に、映画の原作になる漫画が載っていた。この掲載場所は、『風立ちぬ』の成り立ちを知るうえで興味深いところです。
映画から入った人には恋愛や人生の物語として印象に残るかもしれませんが、その原作は、模型や航空機に関心のある読者が手に取る雑誌で発表されていました。
ただし、掲載誌の性格だけを理由に「漫画は飛行機の説明だけで、恋愛要素はない」と判断することはできません。どの場面が漫画にあり、どこが映画で変わったのかは、本文を照らし合わせて確認する必要があります。
連載情報:スタジオジブリ「映画『風立ちぬ』の原作漫画が、単行本として発売されました」
原作漫画の単行本は『風立ちぬ 宮崎駿の妄想カムバック』
原作漫画は、『風立ちぬ 宮崎駿の妄想カムバック』という単行本に収録されています。発行元は大日本絵画です。
三鷹の森ジブリ美術館の公式オンラインショップでも、映画の原作漫画をまとめた本として紹介されています。漫画の全9話・45ページに加え、関連記事やコラムなども収録した一冊です。
そのため、「原作漫画を読みたい」ときは、映画の写真を使った本や絵コンテ集ではなく、この書名を目印にすると探しやすくなります。
漫画の45ページと、本全体のページ数は違う
ここで混同しやすいのが、漫画自体の分量と、単行本全体の分量です。
「全9話・45ページ」は原作漫画の分量を指します。単行本には漫画以外の記事も収録されているため、本のすべてが漫画という構成ではありません。
公式の商品紹介では、関連する模型専門誌の記事や、作中に登場する航空機の解説なども掲載されていることが分かります。物語に加えて、飛行機や作品の背景を知る資料も含まれているわけです。
漫画を読むための本であると同時に、その周辺へ関心を広げる入口にもなる構成だといえそうです。
収録内容:三鷹の森ジブリ美術館オンラインショップ『風立ちぬ 宮崎駿の妄想カムバック』
単行本が映画より後でも、漫画の発表は先
原作と映画の順番を考える際には、雑誌での発表と、単行本化の時期を分けることも大切です。
漫画の連載は2009年から2010年。映画は2013年公開で、原作漫画が単行本にまとまったのは2015年です。
| 時期 | 発表・公開されたもの |
|---|---|
| 2009年4月号~2010年1月号 | 『月刊モデルグラフィックス』で漫画を連載 |
| 2013年7月20日 | 映画『風立ちぬ』を日本で公開 |
| 2015年 | 原作漫画を単行本化 |
単行本の刊行年だけを見ると、映画を後から漫画にした本のように見えるかもしれません。しかし、実際には映画より先に発表されていた漫画を、後から一冊にまとめたものです。
「本が出た年」と「作品が最初に発表された年」は、同じとは限らないんですね。この順序が分かると、映画のコミカライズとの違いも整理できます。
堀辰雄の小説『風立ちぬ』は、映画とどう関係する?
では、宮崎駿の漫画が原作なら、堀辰雄の小説は関係ないのでしょうか。そういうわけでもありません。
スタジオジブリは、映画のタイトルが堀辰雄の小説『風立ちぬ』に由来し、その小説のモチーフを踏まえて、二郎と菜穂子の出会いと別れを描いていると説明しています。
つまり、宮崎駿の漫画が原作であることと、堀辰雄の小説が映画に関わっていることは、両立します。
ただ、「映画『風立ちぬ』は堀辰雄の小説をそのまま映像化した作品」と説明すると、航空機の設計者である二郎の成り立ちや、宮崎駿の原作漫画の存在が抜け落ちてしまいます。
映画を理解するには、原作漫画だけでなく、実在の航空技術者・堀越二郎と、文学者・堀辰雄という二つの源にも目を向ける必要があります。
確認元:スタジオジブリ「野中くん発 ジブリだより」2013年7月号
映画の二郎は、実在の堀越二郎と堀辰雄を重ねた主人公
原作漫画と小説の関係を考えるうえで、押さえておきたいのが映画の主人公・堀越二郎の成り立ちです。
スタジオジブリは、航空技術者の堀越二郎と文学者の堀辰雄について、二人の半生を融合させ、新たな主人公・堀越二郎を生み出したと説明しています。
そのため、映画の二郎を「実在した堀越二郎の人生を、そのまま再現した人物」と考えると、史実と創作を混同しやすくなります。
飛行機設計の人生と、文学に由来する恋愛のモチーフ
実在の堀越二郎は、零戦の設計者として知られる航空技術者です。一方、堀辰雄は、小説『風立ちぬ』などを残した文学者です。
映画は、この二人につながる要素を一人の主人公の人生に重ねています。飛行機を作る仕事の物語と、菜穂子との出会いと別れを描く物語が、同じ映画の中にあるのはそのためです。
ただし、仕事の場面はすべて史実、恋愛の場面はすべて小説の再現、と機械的に分けられるわけではありません。映画の人物や出来事を史実として紹介するには、それぞれ別の確認が必要です。
実在の人を出発点にしながら、映画として新しい人生を描いている。この捉え方が、原作やモデルの関係を整理する助けになります。
確認元:スタジオジブリ「野中くん発 ジブリだより」2013年7月号
「誰の人生なのか」だけでは捉えきれない作品
ここからは作品の成り立ちについての考察ですが、二人の人生を重ねることで、飛行機の開発を達成したかどうかだけでは測れない、人の生き方が描けるようになっているとも考えられます。
仕事に力を注ぐ時間と、大切な人と過ごす時間は、同じ人生の中にあります。仕事の目標を達成したからといって、それだけで人生のすべてを語れるわけではありません。
原作の関係を知ると、『風立ちぬ』を飛行機設計者の伝記としてだけ見るのではなく、仕事と私生活を一緒に描く物語として受け取る入口ができます。
もちろん、これは作品の構成から考えられる読み方です。監督の意図を一つの言葉に決めるものではありません。
原作漫画と映画の違いを知りたいとき、何を比べればいい?
原作漫画があると分かると、「映画と同じ話なのか」「菜穂子との関係も同じなのか」が気になるところです。
ただし、公式の書籍紹介で確認できるのは、原作としての位置づけや収録内容です。それだけで、個々の場面の追加・削除や結末の違いまで判断することはできません。
実際に比べるなら、まずは出来事、人物の描き方、表現方法を分けて見ると整理しやすくなります。
同じ出来事があるかと、同じ印象になるかは別
漫画と映画の両方に同じ出来事があっても、受ける印象まで同じになるとは限りません。
漫画では、コマの配置や文章、読者がページをめくる速さが読み心地に関わります。映画では、声の調子、音楽、動き、場面の長さなども印象を作ります。
そのため、原作との比較は、場面があるかないかを数えるだけでは終わりません。同じやり取りが、どんな間合いで伝えられるのかにも目を向けられます。
これは漫画と映画を比べる際の一般的な視点です。『風立ちぬ』の具体的な変更点については、原作本文と映画の該当場面を確認したうえで区別する必要があります。
45ページという分量だけで、映画の追加部分は決められない
原作漫画が45ページと聞くと、長編映画のどこまでが描かれているのか、気になるかもしれません。
しかし、ページ数だけでは、扱っている出来事の範囲や密度は分かりません。短い文章や一つのコマが、長い時間の経過を表している場合もあります。
そのため、「原作が短いから、映画の恋愛部分はすべて後付け」といった説明は、分量から推測するだけでは成立しません。
漫画が何ページあるかと、映画のどの部分に対応するかは、別に確認したい情報です。原作の存在を知ることと、内容を比較することを分けると、思い込みを避けられます。
原作漫画・小説・絵コンテ集を取り違えないために
『風立ちぬ』には、同じ作品名を含む本が複数あります。読みたい内容に合わせて、著者名と本の種類を確認すると選びやすくなります。
| 知りたいこと | 確認したい本・資料 |
|---|---|
| 宮崎駿が描いた原作漫画を読みたい | 『風立ちぬ 宮崎駿の妄想カムバック』 |
| タイトルや恋愛のモチーフにつながる文学作品を読みたい | 堀辰雄の小説『風立ちぬ』 |
| 映画のカット構成や演出の指示を知りたい | 映画の絵コンテ集 |
原作漫画と絵コンテは、どちらも絵と文字で表現されますが、役割が違います。絵コンテは映像制作のためにカットや動きなどを示す資料であり、今回紹介している雑誌連載の漫画とは別のものです。
また、堀辰雄の小説を手に取っても、宮崎駿の漫画が収録されているわけではありません。同じタイトルだからこそ、書名だけでなく著者名まで見ることが大切です。
原作漫画の収録内容:三鷹の森ジブリ美術館オンラインショップ『風立ちぬ 宮崎駿の妄想カムバック』
小説の著者・書籍情報:集英社『風立ちぬ』堀辰雄
まとめ|『風立ちぬ』は宮崎駿の原作漫画から生まれた映画
映画『風立ちぬ』の原作は、宮崎駿が『月刊モデルグラフィックス』に連載した同名漫画です。全9話・45ページの漫画は、『風立ちぬ 宮崎駿の妄想カムバック』に収録されています。
一方、堀辰雄の小説『風立ちぬ』は、映画のタイトルや恋愛のモチーフに関わっています。さらに、主人公の二郎は、実在の航空技術者・堀越二郎と文学者・堀辰雄の半生を融合して作られた人物です。
漫画、小説、実在の人物。それぞれが映画とどうつながるのかを分けると、「原作はどれ?」という疑問も整理できます。
映画の出発点をたどりたいなら、まずは宮崎駿自身が描いた漫画へ。そこから文学や飛行機へ関心を広げていくのも、『風立ちぬ』を楽しむ一つの道になりそうです。

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