『猫の恩返し』の主人公・ハルは、猫の国で思いがけない冒険をする女子高校生です。周囲の勢いに押されてしまう姿がある一方、物語の始まりでは、危険にさらされた猫を自分から助けています。
ハルはどんな少女なのか。結論からいうと、人を思いやる行動力を持ちながらも、自分がどうしたいのかを見失いかけ、冒険を通して自分の意思を確かめていく主人公と捉えられます。
「流されがち」という見方は、彼女の一面を表しています。ただ、それだけで説明すると、最初から持っていた優しさや勇気を見落としてしまいます。
この記事では、ハルの基本設定と、猫を助けたことから始まる出来事を整理し、周囲に合わせる姿と、自分で選ぼうとする姿を考察します。
※この記事では『猫の恩返し』の結末までネタバレします。
『猫の恩返し』ハルとは?17歳の普通の女子高校生
ハルは『猫の恩返し』の主人公で、17歳の女子高校生です。声を担当しているのは池脇千鶴さんです。
日本テレビの公式紹介では、原作者の柊あおいさんが、読者が感情移入してファンタジーの世界へ入れる人物として、普通の17歳の女子高校生・ハルを考えたことが説明されています。
スタジオジブリの公式紹介でも、ハルは身近にいそうな普通の女子高校生として紹介されています。最初から不思議な世界に詳しい英雄ではなく、驚いたり戸惑ったりしながら、その世界と関わる少女です。
出典:スタジオジブリ「『ジブリの森』6月号は、『猫の恩返し』を大特集!」
ここからは人物の描かれ方への考察ですが、ハルが完璧ではないからこそ、読者も彼女と一緒に状況を理解できます。何が正解か分からないまま返事をしてしまうことや、目の前の言葉に気持ちが動くことも、その身近さにつながっています。
ハルは流されるだけの少女ではない|猫を助けた最初の行動
物語が動き出すきっかけは、ハルが帰り道で、トラックにひかれそうになった猫を助けることです。助けられた猫は人間の言葉で礼を述べますが、その正体は猫の国の王子・ルーンでした。
この救出とルーンの正体は、放送局の公式あらすじでも確認できます。
出典:FBS福岡放送「スタジオジブリが贈るふしぎな冒険ファンタジー『猫の恩返し』」
王子だと知る前に助けている
大切なのは、ハルが相手を王子だと知って助けたわけではないことです。特別なお礼や、猫の国への招待を期待していたわけでもありません。
目の前に危ない状況があり、助けようと動く。そこには、ハル自身の判断があります。
この行動から考えると、彼女は何も決められない少女ではありません。相手を思いやり、必要だと感じたときに動ける力を、冒険の前から持っています。
ハルの成長は、何もなかったところへ勇気を与えられる話というより、もともと持っていた力を、自分自身のためにも使えるようになる過程として読めるでしょう。
他人のためには動けても、自分の希望は言いにくい
猫を助けるときの行動力と、その後に周囲の勢いへ押される姿。この違いは、ハルを考えるうえで興味深いところです。
誰かが困っているときには動けるのに、自分が困ったときには、どう断ればよいか分からない。ハルの描写には、そうした不均衡を重ねることができます。
人のことなら「助けな」と思えても、自分のことになると「まあ、ええか」と後回しになることもあるんよな。ハルの優しさと迷いは、別々の性質として切り離せないのかもしれません。
ただし、これは行動の違いから読み取れる解釈です。ハル自身がそのように自分を分析する場面がある、という意味ではありません。
猫の恩返しは、なぜハルを困らせるのか
ルーンを助けたハルのもとへ、父親の猫王が現れ、恩返しを申し出ます。しかし、その後に届くものは、ハルにとってありがたいものばかりではありません。
さらに猫王は、ハルをルーンの妃に迎えることを勝手に決めてしまいます。ここで、相手に感謝される出来事が、自分の将来を決められる問題へ変わっていきます。
相手が喜ぶことと、自分が望むことは違う
猫王たちの恩返しでは、猫の側が考える喜びと、ハルが望むことがかみ合いません。贈り物の好みの違いが、やがて結婚という大きな選択にまで広がってしまうのです。
ここからは考察ですが、この展開には、相手の善意や好意があっても、受け取る側の意思を確かめなければ困らせてしまう、という関係の難しさが見えます。
ハルが猫を助けたことは、結婚を承諾したことではありません。感謝を受け取ることと、自分の人生を相手に任せることは、別の話です。
だから、ハルに必要になるのは、感謝してくれる猫たちをすべて嫌いになることではなく、自分が望むことと、望まないことを区別する力なのでしょう。
バロンとの出会いは、自分の意思を確かめるきっかけになる
困惑するハルは、謎の声に導かれ、ムタの案内で猫の事務所を訪れます。そこで出会うのがバロンです。
FBS福岡放送の公式紹介では、バロンがハルの話を聞き、自分を見失わないように諭すことが説明されています。
猫王がハルの将来を決めようとするのに対し、バロンの助言は、ハル自身がどうあるかへ意識を向けさせます。この違いが、2人の役割を分けていると考えられます。
誰かに助けてもらうことは、すべての判断をその人へ渡すこととは限りません。助けを借りることで、自分の希望を確かめたり、選ぶための余裕を取り戻したりすることもあります。
ハルにとっての「自分を取り戻す」とは、一人で何でもできるようになることではなく、誰かの力を借りながらも、自分の気持ちを置き去りにしないことだと読めます。猫になるハルの姿は、自分を見失うこととどうつながる?
猫の国へ連れていかれたハルは、やがて猫の姿へ変わってしまいます。人間として暮らしていた少女が、別の世界の住人へ近づいていく展開です。
この変化は、物語上の不思議な出来事であると同時に、自分のあり方が周囲の都合に合わせて変わっていく様子として読むこともできます。
ただし、「猫になることは必ずこの意味を表す」と、制作側の公式な意図として断定することはできません。ここでは、猫王が決める結婚と、ハルの変身が重なることから考えてみます。
受け入れてもらえる場所でも、自分の希望は必要になる
猫の国では、ハルは王子を助けた人物として迎えられます。しかし、歓迎されることと、自分の意思を尊重されることは同じではありません。猫王の望む結婚を、そのまま自分の望みにする必要はないのです。
誰かに歓迎されると、うれしくなることもあるでしょう。それでも、そこで求められる役割が、自分の望む生き方と合っているかは、別に確かめなければなりません。
ハルの猫への変化には、周囲に受け入れられる一方で、自分が何者なのかが曖昧になる危うさを重ねることができます。
居場所があるのはありがたい。でも、そこにいるために自分の気持ちを全部引っ込めなあかんのやったら、落ち着ける場所とは言い切れへん。その違いが、ハルの冒険には見えてきます。
ハルの成長は、助けられる側から行動する側への変化
ハルは、バロンやムタたちに助けられながら、猫の国から元の世界へ帰ろうとします。物語の結末では帰還を果たし、冒険を通して自分の時間を生きることを学んだ少女として描かれます。
この過程で大切なのは、バロンがすべてを決め、ハルがただ運ばれて帰る話として捉えないことです。帰りたいという自分の希望を持ち、仲間とともにそこへ向かうことに、彼女の変化があります。
「自分で決める」と「一人で解決する」は違う
ハルの成長を、一人で何でもできるようになることと考えると、仲間に支えられる意味が薄くなってしまいます。
不思議な世界の仕組みを知らないハルには、案内や助言が必要です。力を借りながら状況を理解し、そのうえで自分が進みたい方向を確かめていきます。
ハルが取り戻すのは、誰にも頼らない強さではなく、誰かに助けられていても、自分の希望を持ってよいという感覚だと考えられます。
相手の力を借りたら、その人の言うことを全部聞かなければならない。そんな関係では、自分の意思を持ちにくくなります。バロンたちとの冒険は、助けてもらうことと、自分で選ぶことが両立する様子として読めるでしょう。
優しさを捨てる必要はない
冒険を終えるために、ハルが猫を助けた最初の行動を否定する必要もありません。問題なのは、助けたことではなく、その後に本人の意思を置き去りにして進められる恩返しです。
他人を思いやることと、望まないことを断ることは矛盾しません。優しくあるために、自分の気持ちまで我慢し続ける必要はないのです。
ハルの成長には、性格を別人のように変えるより、もともとの優しさに、自分を守る意思が加わっていく変化を感じられます。
ハルはなぜ、身近に感じられる主人公なのか
ハルの魅力は、迷いやすさだけでも、勇敢さだけでも説明できません。猫を助けるときには思い切って動くのに、自分の将来に関わる話では戸惑ってしまう。その不揃いさに、身近さがあります。
いつでも自信を持って判断できる人ばかりではありません。ある場面では行動できても、別の場面では相手の勢いに押されることがあります。
原作者が、読者が感情移入して物語へ入れる人物として普通の女子高校生を考えたという制作情報も、こうしたハルの役割を理解する手がかりになります。
ここからは人物への考察ですが、ハルには、最初から正しい答えを知っている主人公とは違う良さがあります。戸惑いながら、自分が嫌なことや、大事にしたいことを少しずつ確かめられるからです。
最初から強くないと、自分の人生を選べないわけやないんよな。迷ってから考え直してもいいし、途中で「やっぱり違う」と言ってもいい。ハルの歩みには、そんな受け取り方ができます。
「流されがちな少女」という言葉だけでは見えないハル
ハルを「流されやすい」と見ることはできますが、その言葉だけで人物全体を決めると、見落とすものがあります。
- 危険にさらされた猫を、自分から助ける行動力。
- 困ったときに、助言や案内を受け入れる柔軟さ。
- 周囲が決めた将来に対して、自分の希望を確かめる変化。
- 助けを借りながら、元の世界へ帰ろうとする姿。
これらを合わせて見ると、ハルは「何もできない少女が、立派な誰かに変わる」という単純な主人公ではありません。最初から持っていた力と、冒険の中で身につけるものの両方があります。
ハルの変化は、弱い自分を消すことよりも、迷う自分も含めて、自分の人生を引き受け始めることにあるのかもしれません。
猫の国から帰るという出来事は、その変化を目に見える形で示しています。ただ、彼女がその後一度も迷わなくなるとまでは、作品は保証していません。成長しても迷いはある。その中で、自分の気持ちへ戻れることが大切なのでしょう。
まとめ|ハルは優しさを持ったまま、自分の意思を確かめていく主人公
『猫の恩返し』のハルは、17歳の普通の女子高校生です。猫の王子・ルーンを助けたことから、恩返しとして猫の国へ招かれ、本人の意思とは別に結婚話が進んでしまいます。
周囲の勢いに押される一方で、ハルには最初から、誰かを助ける優しさと行動力があります。バロンたちとの冒険は、その力を自分のためにも使い、自分がどうしたいのかを確かめる過程として読めます。
優しいことと、何でも受け入れることは同じではない。助けてもらうことと、自分の意思を手放すことも同じではない。ハルの物語は、その違いを軽やかな冒険の中で考えさせてくれます。
誰かに決めてもらうほうが楽に思えるときもある。それでも、自分の気持ちを確かめ直すことはできる。迷いながら帰る道を選ぶハルに、この作品の主人公らしい強さがあるのではないでしょうか。

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