『魔女の宅急便』で、ニシンのパイを作るおばあちゃんのそばにいる女性。キキのほうきにこっそりまたがる姿が印象に残る、あの人物がバーサです。
バーサは、老婦人の家で働くお手伝いさん。家の仕事を支えながら、キキを迎える、お茶目で親しみやすい女性です。
パイを孫娘に届けようとする老婦人と、その暮らしを支えるバーサは別の人物です。二人を区別すると、あの家で交わされる会話や、キキに向けられる優しさも分かりやすくなります。
この記事では、1989年公開のスタジオジブリのアニメ映画を対象に、バーサの役柄、老婦人との関係、ほうきにまたがる場面の魅力を整理します。後半では、物語の終盤でキキを見守る姿についても考えていきます。
※この記事は『魔女の宅急便』の終盤の展開に触れます。
『魔女の宅急便』バーサとは?老婦人の家で働く女性
バーサは、キキがお届けの仕事で訪れる老婦人の家に登場します。老婦人が孫娘に贈ろうとしているのは、ニシンとカボチャの包み焼き。一般に「ニシンのパイ」と呼ばれる料理です。
ここで混同しやすいのが、老婦人とバーサの立場です。孫娘のために料理を用意し、キキに配達を依頼したのは老婦人。バーサは、その家で働き、日常の用事を支える女性です。
つまり、「パイを贈ったおばあちゃんの名前がバーサ」というわけではありません。映画の配役でも、二人は「老婦人」と「バーサ」として分かれています。
バーサの声を担当したのは関弘子さん、老婦人の声を担当したのは加藤治子さんです。配役は、放送局の日本海テレビ公式番組情報でも確認できます。
なお、本記事で扱う映画の公開日や原作、監督などの基本情報は、スタジオジブリ公式の『魔女の宅急便』作品ページに掲載されています。
家族関係や詳しい過去まで決めつけない
バーサと老婦人のやり取りには、気心の知れた相手と暮らしているような自然さがあります。ただし、それだけで姉妹や親戚だと考える必要はありません。
映画の描写から分かるのは、バーサが老婦人の家の仕事を担い、身近なところで暮らしを支えていることです。いつから働いているのか、どんな人生を送ってきたのかといった詳しい来歴は、ここでは断定しません。
むしろ、過去の説明がなくても、二人の距離感は日常のやり取りから伝わってきます。誰かに用事を頼み、それを受けて動く。その合間に、それぞれの性格も顔を出す。そうした小さな描写が、老婦人の家を「人が暮らしている場所」にしています。
バーサとおばあちゃんの関係|暮らしを支える存在
老婦人の家で起きるのは、配達する荷物を受け取って、すぐに出発するだけの仕事ではありません。電気オーブンの不調で料理が焼けず、キキも準備を手伝うことになります。
キキは古い薪のオーブンを使うことを提案し、パイを焼くために動きます。バーサも薪の準備などに関わり、家の中で一緒に作業を進めます。
この場面では、老婦人の「孫に料理を届けたい」という気持ちが中心にあります。しかし、その気持ちを実際の贈り物にするためには、火を起こし、料理を焼き、運ぶ人が必要です。
バーサは、老婦人の思いをそばで支える、生活の実務を担う人物として見ることができます。物語を大きく動かす役ではなくても、彼女がいることで、この家の営みが具体的になります。
ただし、二人の関係を「長年尽くしてきた献身の物語」とまで広げるのは、映画に描かれた範囲を超えてしまいます。大切なのは、目の前の場面で、老婦人が一人ですべてをしているわけではないことです。
誰かの優しさって、その人一人の力だけで相手に届くとは限らへんのよな。贈りたい人がいて、準備を手伝う人がいて、届ける人がいる。パイの場面は、そんな人のつながりとしても受け取れます。
キキにとっても、この家では空を飛ぶ能力だけが役に立つわけではありません。料理が焼けないという困り事に対して、自分にできることを考え、手を動かしています。バーサと同じ場所で作業する時間は、キキが配達員として訪れた家に、少し深く関わる時間にもなっています。
バーサの名場面|キキのほうきにこっそりまたがる姿
バーサの性格がよく表れているのが、キキのほうきにこっそりまたがる場面です。
家の仕事をする姿からは、暮らし慣れた大人という印象を受けます。ところが、空を飛ぶ少女のほうきを前にすると、試してみたくなる。ここでバーサの好奇心が、説明ではなく動作として見えてきます。
この場面で、バーサが実際に空を飛ぶわけではありません。また、彼女が魔女だという設定を示す場面でもありません。ほうきにまたがる仕草から、空を飛ぶことへの興味や、遊び心が感じられる場面です。
キキにとって、ほうきは仕事に使う大切な道具です。一方、バーサにとっては、普段の暮らしではできないことを想像させる道具。その違いが、短い場面に楽しさを生んでいます。
同じほうきを見ても、一人は「これで働く」と考え、もう一人は「これに乗ったらどうなるやろ」と興味を持つ。キキが当たり前に使っている力も、ほかの人から見れば不思議で魅力的なものなのです。
支える側の大人にも、遊び心がある
バーサは、老婦人を支えるだけの人物として描かれているわけではありません。ほうきの場面では、彼女自身の「やってみたい」が顔を出します。
ここから、バーサを好奇心のある女性として読むことができます。ただ、若い頃から空を飛ぶ夢を持っていたなど、描かれていない過去まで補う必要はありません。今、目の前にあるほうきに興味を持った。その小さな行動だけで、十分に人柄が伝わります。
人を支える役割があっても、その人自身の楽しみや好奇心がなくなるわけではない。バーサの仕草には、そんな見方もできます。
『魔女の宅急便』はキキのひとり立ちを描く映画ですが、彼女を取り巻く大人たちも、それぞれの生活や性格を持っています。バーサのお茶目な一面は、そのことを軽やかに感じさせてくれます。
終盤の名場面|テレビ越しにキキを応援するバーサ
バーサのもう一つの印象的な場面が、物語の終盤、飛行船の事故を伝えるテレビ中継を見る場面です。
キキは、飛行船から宙づりになったトンボを助けるため、借りたデッキブラシで空へ向かいます。バーサと老婦人は、その様子をテレビ越しに見守ります。
ここでバーサは、画面の中の出来事に夢中になって反応します。キキが危険な状況に向かっていく姿は、彼女にとって、知らない誰かの活躍ではありません。自分たちの家を訪れ、パイを焼くのを手伝ってくれた少女の姿です。
一緒に過ごした時間があるからこそ、キキの挑戦は身近な出来事になる。バーサの反応には、そのつながりを読み取ることができます。
ほうきにまたがる場面では、空を飛ぶことへの興味が見えていました。終盤では、その空を飛ぶ力を使って誰かを助けようとするキキを見守る。二つの場面を並べると、バーサとキキの関わりにも小さな変化が感じられます。
ただし、バーサがキキの不調や、飛べなくなった事情をすべて理解しているとまでは言えません。観客が知っているキキの苦しみを、登場人物も同じように知っているとは限らないからです。
それでも、事情を全部知らなくても、目の前で頑張る相手を心配することはできる。バーサの応援は、そんな身近な人間関係として受け取れます。
現場にいない人も、キキの物語につながっている
トンボを助けるのはキキ自身です。バーサが救出の方法を教えたり、現場で直接手を貸したりするわけではありません。
それでも、映画は救出する側と救出される側だけを描いて終わりにはしません。キキを知る人たちが見守る姿も映し出します。
バーサと老婦人の反応があることで、キキが街で積み重ねてきた出会いを、終盤の出来事の中でも感じられます。パイを届ける仕事で訪れた家との関係が、その一回で消えていなかったことが分かるのです。
知らない街で始めた仕事が、少しずつ「自分を知っている人」を増やしていく。バーサは、そのつながりを見せてくれる人物の一人です。
バーサと老婦人の優しさは、どう違う?
老婦人とバーサは同じ家にいますが、キキへの関わり方は少し違います。
老婦人は、配達を依頼するお客さんであり、後にはキキのためにケーキを用意する人物です。キキの働きや親切を受け止め、お礼を形にして返します。
一方、バーサの魅力は、家の中の作業や、ほうきへの興味、テレビを見ながらの反応といった、日常の動きに表れます。
老婦人が贈り物や言葉でキキへの思いを示すのに対し、バーサはその場で動き、反応する姿を通して親しみを感じさせる。そう整理すると、二人それぞれの役割が見えてきます。
もちろん、これは作中の描写からの解釈です。二人の性格を一つの言葉で固定したり、どちらの優しさが上だと比べたりする必要はありません。
静かに気持ちを伝える人もいれば、思わず反応が外に出る人もいる。同じ相手を気にかけていても、その表し方は違います。老婦人とバーサが並んでいる場面には、そんな自然さがあります。
バーサから考える、キキが街に居場所を作るということ
キキが老婦人の家を訪れた最初の理由は、仕事です。荷物を預かり、目的地まで届ける。そこには、依頼する人と働く人という関係があります。
しかし、料理の準備を一緒に進めることで、やり取りは荷物の受け渡しだけではなくなります。キキは家の中で困っていることを知り、老婦人やバーサも、キキがどう動く少女なのかを知ることになります。
ここで大切なのは、仕事の関係がなくなるわけではないことです。キキには配達の責任があり、その後の予定もあります。親切にしたからといって、時間や体力の負担が消えるわけではありません。
それでも、一緒に何かをする時間から、人としての関わりが生まれることはある。老婦人の家の場面には、そうした仕事と人間関係の重なりが描かれています。
キキの居場所は、住む部屋だけでなく、自分を覚え、気にかけてくれる人との関係にも広がっている。バーサが終盤でキキを見守る姿は、そのようにも読めます。
ひとり立ちって、何もかも一人でできるようになることなんやろか。それとも、自分で働きながら、頼れる相手や関われる場所を少しずつ増やしていくことなんやろか。
バーサは、その問いに答えを説明する人物ではありません。ただ、キキを迎え、一緒に作業し、後には応援する。その具体的な関わりが、キキの暮らす街に温かさを加えています。
まとめ|バーサは、暮らしの中からキキを見守る女性
『魔女の宅急便』のバーサは、ニシンのパイを贈る老婦人の家で働くお手伝いさんです。老婦人とは別の人物で、声は関弘子さんが担当しています。
家の仕事を支える姿に加え、キキのほうきにこっそりまたがる場面では好奇心が、終盤のテレビ中継を見る場面ではキキへの関心が表れます。
バーサの魅力は、暮らしを支える実務的な姿と、お茶目で感情豊かな姿が、同じ人物の中に自然にあることです。
キキに大きな助言をする人物ではなくても、出会った少女を覚え、その挑戦を見守っている。バーサに目を向けると、キキがこの街で得たつながりを、もう一つ見つけられるはずです。

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